海外ブランドの素材トレンド~今海外で何が求められているのか~
『生地コレクションが出来るまで』
KOWAの生地輸出チームが毎シーズン組んでいる生地コレクション。
そのコレクションの方向性を決めるとき、なにを求められているかが曖昧では作るべきコレクションも八方美人で散漫なものになり、多くの人に好かれようとするあまり、結局誰にも刺さらないものになりかねません。
時代の空気感を反映した素材選びと誠実なモノづくり、さらに裏側に潜むストーリーを生地に込めることで、価値が高く、ブランドの心を捉えるコレクションが生まれる、と私たちは考えています。
すべてのブランドが同じものを求めているわけではない
ハイブランドとファストファッション、ヨーロッパとアメリカ、そしてアジアでは、人種も違えば客層も異なります。そのため「他のブランドはどうでも良い!」「このブランドに向けたモノを作りたい!」と焦点を絞ったモノづくりは、とても重要です。
ただ、ハイブランドは、ブランドごとに異なるスタイルがある一方で、共通のコンセプトが存在しています。
そのコンセプトに潜むエッセンスをいかに汲み取るかが、『今海外で何が求められているのか=どのようなコレクションを作るか』を探るうえで、重要な鍵となります。
ファッションは時代の空気感に呼応する
コロナ全盛期の2020-2021年頃、ファッションにおけるキーワードは『見た目と実際のタッチにギャップがあるもの』でした。
たとえば、一見やわらかそうでありながら、手に取ってみると重い素材。コロナで閉塞感のある重苦しい時代だからこそ、表面だけでもソフトで軽い素材を纏いたいという心情が反映されていたのかもしれません。
ファッションは、時代の空気に敏感に反応するのです。
今の時代に求められる「誠実」なモノづくり
コロナは収束しても、世界は決して幸せ一辺倒ではありません。今も戦争が続き、物価は上がり続けています。SNSの普及により、あらゆるものが相対化され、誰ひとりとして観客であることを許してはくれないのです。
そんな時代に、今とくに海外のブランドで求められているキーワードのひとつが、『誠実』。つまり、安易に良さそうに見えるものを適当につなぎ合わせるのではなく、『誠実なモノづくり』や 『誠実に過去から現在まで紡いできた歴史』が感じられる、特別感あふれる素材です。
簡単にコピーアンドペーストで“それっぽいもの”が作れてしまう現代において、誠実にモノづくりをする姿勢は大変な努力を要します。だからこそ、世界のハイブランドは、今、こぞって追い求めているのです。
海外で求められている素材
気候や地形が文化や食べ物に影響を与え、それらがそこに住む人の気性や生活を形作っていきます。当然コンセプトとのずれは起こりえます。その際は、無理に合わせに行かないということも重要です。どこにおいても必ず合うブランドはあるので、そこにより深く入り込めるよう注力します。
フランス・イタリア
スーピマをはじめとする超長綿の需要が依然として高い状況です。ストリート系のブランドでも同様の傾向が見られ、カジュアルさやスポーティーさを加工や番手で表現しつつ、良質な素材を使用し、あくまでファインなイメージを根底に漂わせています。
単糸よりも双糸が好まれ、強撚糸も人気です。ただし、単にドライなタッチやシャリ感を追求するのではなく、強撚でありながらも加工でやわらかさを持たせるなど、相反するタッチや加工への評価が高まっています。
また、日本独自の加工へのリサーチも、これまで以上に精力的に進められています。塩縮加工や、液流をはじめとした揉み込み系の加工により、天然素材でありながら合繊ライクなタッチを表現した素材が人気です。さらに、京都の着物を染める染工所が手がける、黒をより黒く染める製品染めや藍染など、歴史やストーリー性のある素材に対する関心がいっそう高まっています。
北欧
サスティナブル素材や超長綿、ドレープ性のあるドレス向けの滑らかな素材、とくに美しいサテン系の需要が高い傾向です。北欧の冬は特に暗く厳しい為、世界は全て灰色に変わります。あまりの寒さから外に出るのが難しく、家の中で過ごす時間も増えます。そのため、そこに住む人々はファッションから色を取り入れることを思いついたのです。さらに、北欧の人たちは滑らかな素材、滑らかな曲線等のデザインを好みます。それが結果、ドレープ性が好かれることに繋がっていると思われます。
イギリス
ドライなタッチの素材や、日本ならではの塩縮加工がとくに好まれる傾向です。大手ブランドが比較的少ないイギリスでは、新しいブランドが生まれやすい土壌が整っています。そのため、ブランドの個性や特異性を表現するために、コーティングや特殊素材など、エクストリームな素材が求められているのです。
中東
トーブやカンドゥーラなどの民族衣装用に、日本製の高品質な生地が人気を集めています。他国では見られないほど微細な起毛や滑らかなタッチ、肌に心地よい絶妙な質感を表現した加工が高く評価されており、日本製の生地というだけでブランド視されるほど。トーブは高級なオーダーメイド生地に、パリオリンピックの開会式では日本製の生地がカンドゥーラに起用され、品質の高さを実証しました。
『時代の空気感』『誠実さ』『ストーリー』が大事
ブランドごとに求めるものは異なりますが、共通して大事な要素となるのが、高い技術に裏打ちされた『誠実さ』。
そして、単にトレンドに依存せず『時代の空気感を取り入れた素材選び』『品質の裏側にあるストーリー』です。
市場のニーズに応えるだけでなく、素材や加工を選ぶ理由、つまり製品の背後にあるストーリーを積み重ねていくことが、誠実なモノづくりにつながります。そして、生地のクオリティや価値、さらには顧客満足度へと結びついていくと私たちは信じています。