2026.4.3
英国アパレルの聖地巡礼記
〜初の海外出張で見た“リアル”と“覚悟”〜
憧れの輸出部門へ配属された営業Y氏が、初めて降り立ったイギリス。
そこで待っていたのは、暖房のない極寒ホテル、20kgのスーツケースを抱えて上る地下鉄の階段、そしてなぜか辿り着いたブラジル料理店…。
ハプニング連続の中で見えた英国アパレルと自身の課題。
笑いと学びに満ちた初出張の裏側をお届けします。
念願の部署配属と憧れの海外出張
2025年4月、興和の生活関連事業部・営業第六部一課へと配属されたY氏。
オーガニックコットンブランドで広報として駆け抜けた日々を経て、ついに掴み取った念願のポジション。
日本が誇る高品質な生地を世界のブランドへ届ける営業第六部一課は、いわばグローバルな「目利き」が集まる最前線です。
学生時代の留学をきっかけに「いつか海外と繋がる仕事を」と願っていたY氏にとって、配属先はまさに目標そのものでした。
英国アパレル産業と職人技術
イギリスが今、世界のアパレル市場でどのような立ち位置にあるのか。
産地を巡る中で見えてきた、英国ものづくりの真髄に迫ります。
ウールの聖地に息づく伝統
イギリスといえば、温かみのあるウールやタータンチェック、端正な紳士のスーツ姿を連想する方は多いでしょう。
実際に産地を訪れてみると、そのイメージを裏切らない圧倒的な伝統の厚みがありました。
英国のウール産業は今なお力強い存在感を放ち、ヨークシャー、ウェールズ、スコットランドといった地域は、世界中のブランドが信頼を寄せる聖地であり続けています。
一方で、それぞれの産地同士の距離は想像以上。
先輩I氏と共に、果てしない移動距離を乗り越える“サバイバル”のような日々が始まりました。
綿の都マンチェスターと『メイド・イン・UK』の価値
19世紀、“綿の都”として栄えたマンチェスター。
かつては繊維産業の中心地として栄華を極めましたが、時代の流れとともに大量生産の拠点は海外へ移っていきました。
激動の変革期のなかで国内に残り続けたのは、妥協を許さない職人の手仕事。
『Made in UK』のタグは、単なる生産地表記ではなく長い歴史のなかで磨き上げた確かな技術が、現在の英国アパレルを支えています。
ロンドンが魅せるテーラリング文化
英国の強みを探るうえで、ロンドンのテーラリング文化も外せません。
映画の舞台にもなった有名な仕立て屋通りや、紳士用品店が軒を連ねるエリアには、フルオーダーを中心とした手仕立ての文化が色濃く息づいています。
洗練されたシルエットはもちろん、親から子へ受け継ぎながら長年愛用することを前提とした構造。
トレンドを追いかけるのではなく、“一生寄り添う服”を仕立てる美学が、唯一無二の存在感を放っているのでしょう。
丸編み機発祥の地が編み出す極上ニット
丸編み機発祥の地とされるノッティンガムやレスター近郊には、極上の肌触りを誇る老舗ニットブランドを支える土壌が脈々と受け継がれています。
広大な自社工場を構え、羊毛の選定から編み立てまで一切の妥協を許さないメーカーも珍しくありません。過去の栄光にしがみつくのではなく、独自の品質を守り抜くためのしたたかな戦略が、極上のニットを現代へ力強く繋いでいるのです。
ビジネスメールに現れる“紳士の文化”
現地の取引先から届くメールの冒頭には、必ずといっていいほど相手を気遣う温かい一文が添えられています。
Hope this email finds you well.
(お元気でお過ごしでしょうか)
他国のようにいきなり本題へ切り込むのではなく、まずは一呼吸おいて相手を慮る丁寧なアプローチが光ります。
美しい縫製と紳士的な振る舞いは、一見すると別のジャンルに思えるかもしれません。しかし、根底に流れる相手を思いやる精神は見事にリンクしているようです。
波乱万丈のロンドン滞在トラブル集
初めての海外出張には、新鮮な発見と予期せぬハプニングがつきもの。今回のロンドン滞在でも、一筋縄ではいかないエピソードが次々と巻き起こりました。
極寒のホテルの洗礼
夜9時を過ぎてようやくロンドンのホテルへ到着した時のこと。フロントで耳を疑う言葉を掛けられます。
You can stay but it’s freezing.
(今の部屋は空調がメンテナンス中で、泊まってもいいけれど凍えるよ)
11月の冷え込むロンドンで暖房なしの宿泊は、あまりに過酷。。。急遽、近隣の系列ホテルへ避難する事態に。
タクシーの手配や現地特有の事情に戸惑いつつも、同行した経験豊かな先輩I氏の機転でなんとか代替の部屋を確保。
ところが…先輩I氏は窓のない地下室に案内されるという、さらなるハプニングが!出張初日から、強烈な洗礼を浴びることとなりました。
20kgのスーツケースと戦う階段
現地のアパレルメーカーへ提案する生地サンプルは、およそ100品番。すべてスーツケースへ詰め込むと、総重量は20kgに。
ところが、移動の要となるロンドンの地下鉄は、歴史の深さと引き換えに駅構内にエレベーターがほとんどなく、重い荷物を抱え、長い階段を上り下りするしかありません。
現地の頼もしいエージェントや先輩I氏に助けられつつ、オフィス訪問時は階段下で中身を小分けにして運ぶなどの工夫を凝らしながら乗り切ります。
華やかに見える海外出張も、実は体力を要する“泥臭さ”を痛感しました。
異国で響く日本語音声
配車アプリを利用した車内のこと。走行中の静かな車内で「そろそろ休憩しませんか」と流暢な日本語のアナウンスが。
声の正体は、搭載されていた日本製のカーナビ。
What did it say?
(今の言葉、どういう意味かわかる?)
と尋ねる運転手に内容を説明すると車内はプチ笑いに。
未知の言語が流れる機械を平然と使いこなす運転手の姿に驚きつつ、日本製品が世界の隅々で活躍していることを実感しました。
本場の味は何処へ…
出張における密かな楽しみといえば、やはり現地の食事。
10年ぶりのイギリス訪問だったY氏は、フィッシュアンドチップスなど本場の味を期待して胸を膨らませていました。
しかし、海外出張へ慣れすぎてロンドンを福岡くらいに感じている先輩I氏たちから提案された選択肢は、「中華か、肉か」の二択。
結果たどり着いたのは豪快なシュラスコ料理店。
英国どころか、地球の反対側にあるブラジルの味を堪能するとは…。
熱々の肉を頬張りながら、必ずしも旅は予想通りには進まないリアルな現実をかみしめました。
憧れの地で見つけた道標と明日へ繋ぐ決意
Y氏が何より圧倒されたのは、同行した先輩I氏のプロの現場力でした。
約100品番の生地ハンガーが詰まった20kgのスーツケースから、お客様の要望に合わせて瞬時に最適なサンプルを引っ張り出す神業。
長年の経験ですべてが頭に入っている先輩の姿に感銘を受けつつ、生半可な努力では辿り着けない領域であることも痛感します。
だからこそ、自分なりの武器を見つける必要があるーーそう強く感じました。
帰国後は、商談前にリサーチを徹底し、提案をピンポイントで組み立てる戦法へ。
「一刻も早く、一人前の戦力になりたい」
初のイギリス出張で得た学びと熱量を胸に、『The Cotton Makers Studio』から世界へ――Y氏の挑戦は、静かに、しかし確実に動き出しています。