2026.7.7

【連載こぼれ話】あの頃のおもひで 〜中東編

今回は、海外駐在経験が長いベテランセールス・O氏が、

約30年前の中東出張で体験した忘れられないエピソードをご紹介します。

スマートフォンもマップアプリもなかった時代。
海外との連絡手段は電話とFAXだけでした。

そんな時代に、サウジアラビアで人生最大級の冷や汗をかく出来事が起きました。

スマホもマップアプリもない時代

今から約30年前、仕事でサウジアラビア・ジェッダへ出張した時のこと。

当時はまだスマートフォンどころか携帯電話も普及しておらず、マップアプリも翻訳アプリもありません。

日本とのやり取りはホテルの電話かFAXが頼りでした。

出張中はホテルの部屋で資料を作成し、完成したらフロントのFAXから日本へ送信するのが毎日のルーティン。

今ではメール一通で済むことも、当時は深夜までかかることが珍しくありませんでした。

ある日、翌日が現地の休日だったこともあり、仕事が終わったのは深夜2〜3時。

「やっと終わった……」

完成した資料を抱え、眠い目をこすりながらエレベーターに乗り込みました。

深夜2時、突然の悲鳴

途中の階でエレベーターの扉が開き、一人の若い女性が乗ってきました。

すると次の瞬間。

私の顔を見るなり、

「キャーーーーーーッ!!」

ホテル中に響くのではないかと思うほどの大絶叫。

こちらは何が起きたのか全く分かりません。

「え?何かした?」

思わず固まってしまいました。

女性は豪華な刺繍が施された華やかなドレス姿。どう見てもパーティー帰り。

しかし彼女は驚いた表情のまま、逃げるようにエレベーターを降りていきました。

深夜のホテルに一人取り残された私は、

「今のは大丈夫だったのだろうか……」

と、不安と冷や汗だけが残りました。

悲鳴の理由

あとになって現地の方から理由を聞き、ようやく状況を理解しました。

その日は現地の休日の前夜。時刻はすでに深夜2〜3時で、人と鉢合わせすることはほとんどない時間帯でした。

彼女もホテル内なら誰にも会わないと思い、外出時に羽織るアバヤが脱げかけたまま移動していたようです。

当時のサウジアラビアでは、女性は外出時にアバヤと呼ばれる黒いローブを着用するのが一般的でした。

その下に着る華やかなドレスは、家族や女性同士の場でだけ見せる特別な装いです。

つまり彼女にとっては、見知らぬ男性とエレベーターで二人きりになり、その姿を見られてしまったこと自体が大事件だったのです。

日本人の感覚では、「きれいなドレスだな」と思う程度かもしれません。

しかし彼女にとっては、裸を見られたも同然!とっさに悲鳴を上げてしまうほど衝撃的な出来事でした。

事情を知った私は、「警察沙汰にならなくて本当によかった」と胸をなで下ろしました。

文化や価値観が違えば、同じ出来事でも受け取り方は大きく変わります。

あの日の悲鳴は、異文化への理解と敬意の大切さを身をもって教えてくれた出来事でした。

※画像はイメージです

検索ではなく、体験で学ぶ時代だった

今ならスマートフォンで現地の文化やマナーを簡単に調べることができます。

しかし当時は、実際に現地で経験し、周囲の人に教えてもらいながら学ぶことばかりでした。

海外出張は今よりずっと不便でしたが、その分だけ忘れられない出来事も数多くあります。

生地づくりもビジネスも、相手の文化や価値観を理解することから始まります。

長年、中東のお客様とお付き合いを続けてこられたのも、こうした一つひとつの経験を積み重ね、相手を理解しようと努めてきたからこそ。

あの夜の出来事は、異なる文化への敬意の大切さを改めて教えてくれた、今でも忘れられない思い出です。