生地が生まれる瞬間。
新しい生地が生まれるとき。その裏では職人たちの緻密な計算による試行錯誤が繰り広げられています。
創造性と技術が交錯する生地開発の裏側をちょっと覗いてみましょう。
1.ひらめきを生む
生地開発の最初のステップはアイデア出しです。得意先との商談・社内外との情報交換・メディアやSNS・街ゆく人の服装・過去のアーカイブなど、オンオフを問わずアンテナを張り、自由な発想と幅広い情報収集がインスピレーションの源に。
ここで得たネタから、「〇〇が流行っている」「〇〇なら売れそう」といったアイデアが生まれ、今ある商品ラインナップとの相性や、他社との差別化、ターゲット顧客のニーズといった観点からアイデアを絞り込みます。
2.イメージをかたちに
多角的な視点から検討し、最適な規格へ落とし込みます。
原料と混率・糸番手と生産方法・生地規格(密度と組織)・織機の選定は、とくに重要な要素。理想的な仕上がりになるよう完成形をイメージしながら決めるのが、経験と腕の見せどころ。
ポイント!
デニム生地は、織機の種類によって風合いが大きく変わり、ヴィンテージデニムに欠かせないセルビッジ(耳)は、シャトル織機でなければ作れません。また、デニムは先染めのため、生地を織り上げるまで最終的な見え方はわからない難しさがあります。
3.見本反の作成
いよいよ見本反作成!品質面における技術的視点と、ロット・リードタイム・コストの営業的視点を考慮して、最適なサプライヤーを決定。糸が切れやすく織りにくい…糸の密度が高すぎて綺麗に織れない…といった難易度が高い生地については、社内の技術顧問からのアドバイスをもらうこともしばしば…
上がってきた生地は社内で他の営業員と情報共有。
心に残る生地開発
生地開発は、試行錯誤の連続です。こだわりを追い求める開発者たちが実際体験した奮闘のストーリーを紹介しましょう。
T氏の体験談「生分解性とシワ改善の両立を目指して」
某人気ブランドからサスティナブルな素材でシャツを作りたいと依頼を受け、KOWAの和紙素材を提案。しかし、シワが目立つという課題に直面。シワ防止加工を試みるも、期待した効果は得られませんでした。
解決策として、ポリエステルのシワになりにくい特性を活かし、緯糸にポリエステルフィラメント糸を打ち込む見本反を検討。ところが、和紙の生分解性というコンセプトが崩れてしまうジレンマに。もはや企画は打ち止めかと思われたとき、ある商談で生分解性のポリエステル糸の存在を知り、すぐさま挑戦。現在、生分解性とシワ改善を両立させた新しい和紙素材の見本反を作成しています。
A氏の体験談「ロングセラーを生んだ品番」
売れ筋の〈KN107A GENDAI〉をベースに、同じ肉感を持ちながら、異なる質感や風合いを持つ生地の開発に挑戦しました。T400からナイロンへ変更することで、ナイロン特有のシボ感・清涼感を持つ、表情豊かな風合いを生み出すことに成功。重量感のある見た目とは裏腹に、軽やかな新しい素材が完成したのです。コットンのやさしい風合いとナイロン特有の肌あたりのよさが心地よく融合し、デイリーに着用しやすいロングセラー商品となりました。
さまざまな加工技術
生地の機能性や風合いを向上させる加工技術の数々。素材の持ち味や可能性を引き出し、付加価値を高めるうえで重要な役割を担っています。数ある加工の中から定番の加工をご紹介しましょう。
チンツ加工
高熱とローラーによる圧力をかけて、生地に光沢を生み出す加工法。カレンダー加工やシレー加工も、同様の効果があります。衣料用としては、シャツ・ジャケットなどのトップスや、スカート・ワンピースなどのボトムスに最適。資材用としては、カバンやインテリア雑貨におすすめです。
シリコン含浸加工
シリコン樹脂でコーティングする加工法。耐水性や撥水性といったさまざまな機能性を付与し、さらにシリコン特有のさらっとした手触りが加わるのが特徴です。ハリやコシのある、さわやかで着心地のよい風合いが生まれ、主にパンツやアウター素材に使用します。
液アン加工
主に綿や麻といったセルロース系繊維を膨潤させ、繊維一本一本の断面を丸く整えてねじれをなくし、滑らかに仕上げる加工法。繊維を液体アンモニアに短時間浸した後に除去する工程により、防縮性・防シワ性・強度・発色が向上し、よりソフトで光沢感のある風合いが生まれます。形態安定加工の前処理としてよく用いられ、処理後に樹脂加工を施すことで、強度低下が少なくソフトな風合いを実現。また、液体アンモニアの代わりに苛性ソーダを用いるシルケット(マーセライズ)加工も同様の効果があり、シャツやブラウスにおすすめです。
ニドム加工
揉む・叩いてコシを抜かし膨らみを出す手法で、素材や生地をやわらかくしたり、ユーズド感を演出したりする加工法。アンティークやヴィンテージファッションでよく見られ、化学的な薬剤や処理を施す場合もあります。数十年前にはテンセルやリヨセルなどに施し、一斉を風靡したことも!
創造と技術の融合
生地開発は、単なる素材の組み合わせではなく、創造性と技術が融合する芸術的な営みです。綿密な市場調査から生まれたアイデアを、素材選び、織り方、加工といった多岐にわたる技術で具現化します。
ヴィンテージデニムのセルビッジのような伝統的な技法から、生分解性素材のような最先端の技術まで、様々な要素が組み合わさり、無限の可能性を秘めた生地が誕生しているのです。
開発者たちの情熱と試行錯誤が、私たちの生活を彩る多様な衣料品を生み出し続けています。
KOWAは2024年12月4日〜5日にデニム・プルミエール・ヴィジョン・ミラノ に出展します。みなさまのご来場をお待ちしております。